「あいうえお」の50音に沿った単語で、ハノイを紹介するシリーズ。3回目は「う」。「雨季」についてのお話です。
ベトナムも他の東南アジアの国々同様、乾季と雨季があります。さらに言うならば、北部のハノイは亜熱帯気候に属するため、常夏のホーチミンとは違ってなんとな〜く四季らしきものも存在します。しかしその移ろいは日本ほど明確ではなく、本当になんとな〜くな感じです。
で、その雨季ですが、だいたい5月〜10月くらい。この頃にはスコールも頻繁に起こります。そして、その勢いたるやもう。この時期は総じてあまり天気がいい日はないのですが、さっきまでのくもり空にひときわ黒い雲が現れたかと思ったら、「ポッ……ポッ…ポッ」と舞い降ちる雨粒。そしてあっという間に「ポッ…ポッポッ、ポポポドワァァァァァ!!!ビシャァァアアアアン!!!」と雨が打ち付けてくるという。「ザァァァァ!」なんかじゃ生ぬるいです。この世の雨という雨がハノイに集まってきてるんじゃないの、っていうくらいの勢い。
もはやこれは「雨」という名の暴力。傘なんてさしてみたところで、気休めにすらなりません。さらに降雨量に対して排水が追いつかないので、すぐに道路一面が水びたしになります。バイクも車もザバザバと飛沫を上げて走っていく始末。もし屋外でスコールにあった場合は、抗う意思など早々に手放し、近くの軒先で静かに時が過ぎるのを待つしかありません。
スコールに慣れていない私からすると、毎回「ひぇ〜、くわばらくわばら」という感じなんですが、地元の皆さんはすこぶる「想定内」の対応。雨が降りそうだと感じるや否や、店を構えている皆さんはそそくさと軒先の品物やテーブルを手早く店内へ。ハノイでは歩道も店の一部ですからね。そして道行くライダーたちはおもむろにバイクを端に寄せ、メットインから雨合羽を取り出し素早く装着。そして、そのまま何もなかったように運転を続けるのです。いや嘘でしょ?そのへん波打って海みたいになってるけど。
その後は、あちこちの軒先から水が滝のように流れ落ち、地面に跳ね返った雨のしぶきが水煙となり、視界もままならないというとんでもない状況になっていくわけですが、そこはスコール。しばらく経つと、ぴたっと雨は止むのです。そして皆さんは元通りの日常へ。しまい込んだ商品やテーブルを元あった場所に戻し、さくっと営業を再開。ライダーたちはおもむろにバイクを端に寄せ雨合羽をメットインにしまい、何もなかったように運転を続けるのです。まさに「ただ、ものすごい雨が降っただけ」。それだけ。大騒ぎするほどのことじゃない。
こちらとしては、「えっ、なんでそんなに普通な感じで戻れるの」と思うわけですが、いやはや、毎回このたくましさには感心させられます。みんなほんとおおらか。こんな雨も含めて、ここで生活するということなんですね。