旅行中は出来る限り晴れてほしい、というのは誰しもが思うところであって。短い旅程のなかで見たい場所がいっぱいあるのに、雨だと移動も億劫になるし、足元は濡れちゃうし。念のためにと持ってきた折りたたみ傘をさしたって、いつもの傘に比べて小さいから何となく肩を狭めて歩いちゃうし。何より傘を持つ片手が塞がれちゃって、地図の確認でさえも手間取るし。楽しみにしていた景色だって、空がどんよりしてちゃあ、あんまり魅力的に見えないかもしれない。

でもね。ハノイに限っては、雨は忌むべきものじゃない。ハノイには何とも言えない「寂しさ」が漂っていて、それは建物に伸びる蔦や、剥がれかかった外壁、ふと目に止まった路地の隙間なんかから静かに漏れ出してくる。そして、私達の中にある「侘び寂び」の精神を確かに揺さぶり、だからこそこんなにも人を惹き付ける。まあ、これはベトナム全般に言えることかもしれないけれど。

そんなハノイには、雨が本当によく似合う。濡れそぼった道路、雨露がしたたる街路樹、どんよりと重い鈍色の空が、そこはかとない寂しさを湛えた街の風景にこの上なくマッチする。だから、もしハノイで雨に降られても、がっかりしなくて大丈夫。太陽の下では気にもかけなかった街並みや路地があちこち色づいて、よりいっそう濃くハノイの魅力を感じられるはずだから。

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